ユングは、すべての文化、すべての時代、すべての個人に「ある象徴的なテーマ」が存在することを発見した。元型(アーキタイプ)の像が神話的で、人類の太古の歴史や種族の記憶に遡るように考えられるので、ユングはこの言葉を、集合的無意識に存在する力動作用を表現するのに採用し、「元型(アーキタイプ)」と呼んだ(ユングの造語ではない)。元型とはユング心理学(分析心理学)において有用とされる「人類全体の心の深い部分に共通して存在するとされる普遍的なイメージ(具体的なイメージそのものではなくイメージの表象可能性)」のことであり、夜見る夢のイメージや象徴を生み出す源となる存在とされている。また、元型は、集合的無意識のなかで仮定される、無意識における力動の作用点であり、意識と自我に対し心的エネルギーを介して作用する。元型の象徴的はテーマが合わさって「集合的無意識の元型」を構成している。私たちが「思うこと」や「感じること」は全て、古代から受け継がれてきた「元型」の影響を受けており、その文脈なくしては人は自分自身とも他人とも理解し合えないとされる。元型は、その説明として、「作用像(イメージ等)」がしばしば使用される。
ユングの理論において、中心的な意味と働きを持つ元型は2つあり、意識の中心としての「自我(エゴ)」の元型と心(魂)全体の中心として仮定される「自己(ゼルプスト)」の元型である。また、ユング心理学(分析心理学)において、自我(エゴ)の元型だけが意識のなかに存在する。
「自己(ゼルプスト)」の元型は自我に作用するが、その作用は、意識において様々に解釈され、また典型的な類型としての作用として意識される。このような類型としての集合的無意識からの作用点が、諸元型であり、ユングは次のような元型を代表的に提唱した。
代表的な元型
- 自我(エゴ)- 意識のなかの唯一の元型であり、意識の中心であり、個人の意識的行動や認識の主体である。
- 自己(ゼルプスト)- 心全体の中心であり、心の発達や変容作用の根源的な原点となる元型。宗教的には「神の刻印」とも見做される。
無意識の領域にある元型(アーキタイプ)
無意識の領域にある元型(アーキタイプ)は5つある。
影(シャドー)、アニマ、アニムス、太母(グレート・マザー)、老賢人(オールド・ワイズマン)である。
- 影(シャドー)- 意識に比較的近い層で作用し、自我を補完する作用を持つ元型。平たく表現すれば”分身”であり「(そうなる可能性はあったがそうはならなかった)もう一人の自分」である。肯定的な影と否定的な影があり、否定的な場合は、自我が受け入れたくないような側面を表すことがある。
- アニムス(ラテン語:animus、理性としての魂) - 女性の心(の無意識)にある理性的要素の元型で、選択的特徴を持ち、男性のイメージでしばしば認識される。女性の中の「内なる男性(男性像)」である。この型にとらわれた女性は、戦う強い女性となる。
- アニマ(ラテン語:anima、生命としての魂) - 男性の心(の無意識)にある生命的要素の元型で、受容的特徴を持ち、女性のイメージでしばしば認識される。男性の中の「内なる女性(女性像)」である。具体的なイメージでいえば、マリリン・モンローのような官能的な女性像もあれば、マリアのような神聖な女性像もある。
- 太母(グレート・マザー)- 自己元型の主要な半面で、すべてを受容し包容する大地の母としての生命的原理を表す。育みや豊穣の象徴、あるいは飲み込む存在(これにとらわれた少年は不登校となる)である。女性の最終的な到達目標とされる一方で、母からの乳離れの象徴として「太母との対決」が挙げられることもある。
- 老賢者(オールド・ワイズ・マン、old wise man)- 自己元型の主要な半面で、理性的な智慧の原理を表す。他者を導くような存在で、男性の最終的な到達目標とされる一方で、子にとって乗り越えるべき象徴の一つとして挙げらえることもある。イメージとしては、ハリーポッターに登場する、ホグワーツ魔法魔術学校校長のダンブルドアが近い。
その他の元型
- 永遠の少年(puer aeternus)- 大人の世界を拒否して、いつまでも思春期の心情で生きたがる大人のこと。大人にならない存在であるピーターパンのようなイメージであり、 モラトリアム心性にも通じる。親に呑み込まれて大人になれず、現実原則の中で生きるだけの自我が育っていないともいえるが、人生の夢と心情の豊かさが利点でもある。
彼の中には、現実に触れ、大地を抱き、世界の畑を実らせたいという願望があるのだ。しかし、彼は、世界と幸福は母親からの贈り物であるという秘密の記憶によって、彼の自発性(自分自身が率先していくこと)と持続力が損なわれているため、何度も適当に始めることしかできないのだ。なぜなら、それは彼の膝の上に落ちてくるわけでもなく、途中で出会うこともなく、抵抗し続け、征服されなければならず、力にのみ服従するのである。それは男の男らしさ、熱意、とりわけ自分の全存在を天秤にかけるときの勇気と決意を要求するものである。そのためには、母を忘れ、初恋の相手を手放す苦しみを味わうことのできる、不実なエロスが必要であろう。母親はこの危険を予見して、あらゆる人生の冒険のリスクであるモラルの崩壊から彼を守るために、忠実、献身、忠誠の美徳を注意深く彼に教え込みました。彼はこの教訓をよく学び、母に忠実であり続けている。
ユング『アイオーン』より引用および翻訳
- マンダラ - サンスクリットで「全てを持つ」という意味で、完全なるもの=神々の象徴であり、円形の形象をとる。
- ペルソナ - 仮面を意味し、現実を生きる上での役割(教師、父親、リーダー)
その他の神話的な元型
- 英雄(ヒーロー、hero)

元型:英雄(ヒーロー、hero)
- トリックスター(trickster)
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