「個性化」 とは、個人の中に内在される可能性を実現し個人の自我を高次の全体性へと向かっていくための努力である。ユングは人間の本質に内在する自然な成熟過程であると述べており、自分の人生を賭けた成長とも言える(単に「個性的になる」ことではない)。
「個性化過程(個性化の過程)」とは個人が未分化な無意識を発達させる過程であり、自我が自己からの分離の過程で失った完全なものの可能性を取り戻すことによって全体性を回復し、「自己」を実現することで人が成長すること(すなわち自己実現、Self-actualization)である。これは、ユング心理学(分析心理学)において人生の究極の目的となる。自分の中にある自己イメージに近づいていくと、精神面が成長し進化を遂げられるとユングは考えていた。 世間的な価値観(その時代・場所における集合的な規範、当たり前とされるルール)に無理に合わせ、立身出世や富の築盛を望む現世利益的な生き方より、自分が大事にしたい価値観に忠実になり信じる道を進んでいくことで、より深い充実感や心からの満足感を味わうことができるとユングは考えていたのである。
ユングによると、人生の前半ですべきことは、「学ぶこと」「愛すること」であり、人生の後半では「その人らしさを追求していく」という(実際には人生の初期から「その人らしさ」というテーマに取り組む人もいる)。さらに、精神療法としてのユング心理学(分析心理学)では、意識と無意識のバランスが取れた自己に近づく『個性化(自己実現)の過程』が、精神病理の状態からの回復につながると考えられており、ユングは、個性化過程(individuation process)を用いて中高年者(特に人生の意味を失ったと感じている人々)の患者の心理療法を開拓した。このような患者の多くは宗教的信念を失っていた。ユングは、神話や宗教の探求を行うのと同様に、夢や想像の中で表現される自分自身の意味を再発見ができれば、彼らがより完全な人格となれる(本当の自分らしさを実現できる)ことを見出したのである。
ユングは、人間が完全で、統合がとれ、穏やかで幸福になるのは、個性化過程が完了したとき、つまり意識と無意識が互いに補完し合い、平穏であるときだと考えたのである。
個性化過程の理論
ユングのコンプレックスの理論に加えて、個性化過程の理論は以下のものによって成り立つ。
- 神話のイメージ
- 外向と内向といった一般的なタイプ論
- 夢の補償*
個性化過程の象徴として、元型である影や老賢者、あるいはアニマやアニムスがある。個性化過程はペルソナから始まり、第2の段階ではアニマやアニムス、第3の段階として影(シャドー)、そして老賢者などを経て、最終的には自己(セルフ)へと至る。自己(セルフ)とは、究極の元型のことで、具体的には、神、マンダラ、円、四角などのイメージとして表れる。ユング学派では、このイメージの象徴的な意味を解釈していくことに意味を見いだしている。
*補償(compensation):
ユング心理学(分析心理学)では、無意識の機能として「補償」を重視している。意識があまりにも一面的すぎると、これを補うような働きが無意識に起こり、人を駆り立てる。例えば、全く正反対の性格の人と友達になったり、好きになって結婚したりするというのが該当する。 また、夢や象徴がこのような働きを具体化させるのである。例えば、モーレツ社員で頑張ってきた人が、ホームレスの夢ばかり見る場合、この夢は、時間に縛られない自由さを人生に取り入れる必要性を示唆している、と解釈することもできる。
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