うつ病の治療では、大うつ病性障害として知られる精神障害の治療法について、現状で存在するものを列挙する。患者は、通常外来患者として評価・管理し、患者が自分自身や他人に危険をもたらすと考えられる場合のみ精神福祉部門に入院させる。
うつ病に治療は、休養、心理療法、薬物療法、電気けいれん療法などがある。
重症度別の治療法
うつ病の診断基準では、該当する症状が何項目あるかどうか、生活への支障の程度によって判断される。実際の診断では、重症度は生活への支障の程度から印象で判断されることが多いようである。
- 軽症うつ病・・・社会生活に支障がある状態
- 中等度うつ病・・・日常生活に支障がある状態
- 重症うつ病・・・日常生活をおくれない状態
軽症うつ病の治療
- 全例に行う基礎的介入
- 患者背景、病態の理解に努め、支持的精神療法と心理教育を行う
- 基礎的介入に加えて、必要に応じて選択される推奨治療
- 新規抗うつ薬(SSRI、SNRI、NaSSA)
- 認知行動療法
(うつ病治療ガイドライン第2版より引用)
精神病性の特徴を伴わない中等症、重症うつ病
- 全例に行う基礎的介入
- 患者背景、病態の理解に努め、支持的精神療法と心理教育を行う
- 推奨される治療
- 新規抗うつ薬、三環系 / 非三環系抗うつ薬、電気けいれん療法
- 必要に応じて選択される推奨治療
- BZD(ベンゾジアゼピン系)の一時的な併用
- Li、T3/T4、気分安定薬による抗うつ効果増強療法
- 非定型抗精神病薬による抗うつ効果増強療法
- 治療効果のエビデンスが示されている精神療法(認知療法・認知行動療法、対人関係療法、力動的精神療法、問題解決技法)
- 推奨されない治療
- BZD による単剤治療
- スルピリドや非定型抗精神病薬による単剤療法
- 中枢刺激薬
- バルビツール製剤(ベゲタミンを含む)
- 精神療法単独による治療
- 抗うつ薬の多剤併用、抗不安薬の多剤併用など、同一種類の向精神薬を合理性なく多剤併用すること
(うつ病治療ガイドライン第2版より引用)
休養
生命体は、傷んだ部分をあまり使わないようにすることで回復していく力を持っている。うつ病の治療における休養は、仕事を軽減する・残業をしないというレベルから、仕事を休んで療養するというレベルまでさまざまである。自宅療養をしていても家族に申し訳ない気持ちで過ごしていると落ち着かない、というような場合には、軽症であっても一時的に入院するのがよいこともある。
薬物療法
抗うつ薬は、うつ病を治療するための薬である。症状を改善し、対処可能な副作用がある抗うつ薬を見つけるには、何種類かの抗うつ薬を試す必要がある場合もある。過去に自分や近親者に効いたことのある薬が検討されることもある。
抗うつ薬が効くまでには通常2~4週間かかり、多くの場合、気分が上がるよりも先に睡眠や食欲、集中力の問題などの症状が改善するため、その有効性について結論に達する前に投薬の機会を与えることが重要である。抗うつ薬の服用を始めたら、医師の助けなしに服用を中止するのは望ましくない。抗うつ薬を服用して気分が改善したにも関わらず、自己判断で服用を止めてしまい、うつ状態が再発することがある。患者と医師が薬をやめる時期だと判断したとき、通常は6ヶ月から12ヶ月の経過後に、医師はゆっくりと安全に服用量を減らす手助けをする。急に止めると、離脱症状が出る場合がある。
注意:
・抗うつ薬の服用中、特に服用開始後数週間や服用量の変更時に、子どもや10代、25歳以下の若年層で自殺念慮や自殺行動が増加するケースがある。これは北欧コクランセンター(デンマーク)のTarang Sharma氏らによる研究結果である。抗うつ薬を服用しているすべての年齢の患者について、特に治療開始後数週間は注意深く観察する必要がある。
・抗うつ薬の服用を検討しており、妊娠中・妊娠を予定している、または授乳中である場合は、胎児・授乳中の子供に対する健康リスクの増加について医師に相談すべきである。
セントジョーンズワート(別名:セイヨウオトギリソウ)という漢方薬は、植物性医薬品としては有名で、日本では、不眠、更年期症状やうつ症状の改善や鎮静や催眠を目的とした健康食品に含まれていることがあり、欧州では医薬品となっている。しかし、その安全性と有効性について深刻な懸念がある。医薬品の作用を増強または減弱する作用(薬物相互作用)があり、処方薬の抗うつ薬と併用してはならない。医療従事者に相談する前にセントジョーンズワートを使用することは避けるべきである。オメガ3脂肪酸やS-アデノシルメチオニン(SAMe)など、栄養補助食品として販売されているその他の天然物についても、現在研究が進められていますが、日常的に使用する上での安全性と有効性はまだ証明されていない。
抗うつ薬
大うつ病性障害(単極性うつ病)では、薬物療法が第一選択となることが多く、特に重度のうつ状態や自殺念慮がある場合には重要である。抗うつ薬は、うつ病に使用される薬であり、向精神薬の一種である。
抗うつ薬の種類は以下の通りである。
分類 | 化合物名 |
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MAO阻害薬* | フェネルジン、トラニルシプロミン、イソカルボキサジド |
三環系抗うつ薬 | アミトリプチリン、イミプラミン、クロミプラミン、トリミプラミン、アモキサピン、ドスレピン、ロフェプラミン、ノルトリプチリン |
四環系抗うつ薬 | マプロチリン、ミアンセリン、セチプチリン |
選択的セロトニン再取り込み阻害薬 (SSRI) | フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、エスシタロプラム |
セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 (SNRI) | ミルナシプラン、デュロキセチン |
ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬 (NaSSA) | ミルタザピン |
*MAO阻害薬:
現在、日本では抗うつ薬としてのMAO阻害薬は臨床では認可されていない
抗うつ薬以外に使用される薬
うつ病治療に使用さられるその他の薬 | |
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抗不安薬 | 抗不安薬はうつ症状の不安や緊張を軽減させる効果のある薬です。おもにベンゾジアゼピン系の抗不安薬が用いられており、情動(感情の動き)と関係する脳の海馬や扁桃核といった大脳辺縁系と視床下部に作用して効果を発揮します。 ベンゾジアゼピン系抗不安薬のおもな副作用としては眠気やふらつき、めまいなどが報告されています。 |
睡眠導入薬 | 睡眠導入薬(睡眠薬)は、うつ症状の睡眠障害(なかなか寝付けない、夜中や早朝に目が覚めてしまう)を改善する目的で、おもにベンゾジアゼピン系や非ベンゾジアゼピン系の睡眠導入薬が使用されています。ベンゾジアゼピン系の薬は抗不安薬としても使用されていますが、とくに睡眠を起こす作用の強いものが睡眠導入薬に分類されています。 睡眠導入薬は「怖い」「中毒になる」と考えて飲みたがらない方がいらっしゃいますが、現在、使用されているものは安全性の高い薬です。十分な休養をとることはうつ病治療の基本ですから、睡眠障害がある場合には主治医の指示に従って、正しく睡眠導入薬を使用することが大切です。 |
気分安定薬 | おもに双極性障害の治療に用いられる薬ですが、うつ病の治療にも使用されることがあります。 |
セロトニン症候群
セロトニン症候群(Serotonin Syndrome / Serotonin Toxicity)は、抗うつ薬をはじめとしたセロトニンに関係する作用をもつ薬を服用中に出現する副作用で、精神症状(不安になる、混乱する、いらいらする、興奮する、動き回るなど)、神経・筋症状(手足が勝手にぴくぴく動く、震える、体が固くなるなど)、自律神経症状(汗をかく、熱がでる、下痢になる、脈が速くなるなど)が見られることがある。
セロトニン症候群の原因薬剤は抗うつ薬が最も多く、特に一般に選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)のフルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、エスシタロプラムなどで起きることがほとんどである。
セロトニン症候群は、服薬後数時間以内に症状が表れることが多くあり、服薬を中止すれば通常は24時間以内に症状は消える。しかし、ごくまれに40℃以上の高熱が続き、横紋筋融解症や腎不全、播種性血管内凝固症候群(DIC)などの重篤な合併症を認め、命にかかわることもあるため注意が必要である。
心理療法
うつ病患者には、数種類の精神療法(「トークセラピー」 とも呼ばれ、特定の用語ではなくカウンセリングとも呼ばれる)が役立つ。うつ病の治療に特化したエビデンスに基づくアプローチの例としては、認知行動療法(CBT)、対人関係療法(IPT)、問題解決療法が挙げられる。
その他の治療
高照度光照射療法(光療法)
高照度光照射療法は季節性のうつ病に対する効果が最もよく知られているが、季節性以外のうつ病に対しても同様に効果的とみられる。
この治療は,自宅で2,500~10,000ルクスを30~60cmの距離から1日30~60分間(光源があまり強くない場合はさらに長く)照射する。
遅く寝て遅く起きる患者では,光療法は午前中に行い,ときに午後3時から午後7時までの間に5~10分の曝露を追加することで最も効果的となる。早く寝て早く起きる患者では,光療法は午後3時から午後7時までに行うことで最も効果的となる。
電気けいれん療法(ECT)
薬物療法でうつ病の症状が軽減されない場合、電気けいれん療法(ECT)を検討すべき場合がある。
最新の研究によると以下のとおりである。
- 電気けいれん療法(ECT)は、他の治療法では症状が軽減されなかった重度のうつ病患者にも効果をもたらした。
- 電気けいれん療法(ECT)は、うつ病の効果的な治療法になり得る。迅速な対応が必要な場合や、薬物療法が安全に行えない重症例では、電気けいれん療法(ECT)が第一選択となることさえある。
- かつては完全に入院治療であったが、今日ではECTはしばしば外来で行われる。治療は週に3回、2〜4週間の一連のセッションからなる。
- 電気けいれん療法(ECT)は、混乱、見当識障害、記憶喪失などの副作用を引き起こすことがある。通常、これらの副作用は短期的なものだが、記憶障害が治療経過の前後数ヶ月間残ることがもある。ECT装置と方法の進歩により、現代のECTは多くの患者にとって安全かつ有効なものとなっている。ECTを受けることにインフォームドコンセント(医師と患者との十分な情報を得た上での合意)をする前に、主治医に相談し治療の潜在的な利益とリスクを理解することが重要である。
- 電気けいれん療法(ECT)は痛みを伴わず、電気刺激を感じることもない。ECTを開始する前に、患者は麻酔をかけられ、筋弛緩剤を投与される。わずか数分の治療後1時間以内に患者は目を覚ます。
薬物抵抗性うつ病の治療に用いられる脳刺激療法としては、他に反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)、迷走神経刺激(VNS)などが最近導入された。その他の脳刺激療法は現在研究中である。
磁気刺激治療(TMS、rTMS)
薬物療法でうつ病の症状が軽減されない場合の選択肢として、磁気刺激治療(TMS、rTMS)が挙げられる。電気けいれん療法(ECT)よりも副作用が少ない治療方法である。
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